生物学前学期の講義概要

第2回 生物の基本単位としての細胞

 第2回は、真核生物と原核生物、細胞小器官について解説しました。
 まず、生物の基本単位は細胞であること、細胞説がシュライデンとシュワンによって確立されたことを解説しました。細胞は細胞膜で包まれた領域内に核と細胞質とが存在し、さらに細胞質内に細胞小器官(オルガネラ)が存在します。
 真核生物と原核生物は、遺伝情報が含まれる核が隔離されているかむき出しになっているかで分けられます。これは一般常識として覚えてください。原核生物は古細菌(アーキア)と細菌(バクテリア)に分けられ、古細菌は極端な環境に生息しているグループです。細菌は人間にきわめて関わりが深く、乳酸菌や納豆菌などはヒトに有益ですが、結核菌や黄色ブドウ球菌など病原性の細菌も多数存在します。
 最後に、細胞の小さくなれる限界と大きくなれる限界について解説しました。各自まとめておいてください。


第3回 (遠隔講義)生体を構成する物質

 第3回は、生体を構成する物質について解説しました。
 生体は炭素, 酸素, 水素, 窒素といった原子番号の小さい元素を主体に構成されています。さらに、微量元素として種々の金属元素が含まれます。
 水は生体を構成する分子の約70%を占めます。水は極性が高く、分子同士は水素結合によりつながっています。そして、沸点が高いことや性質が変わりにくいことから、細胞の安定性に寄与しています。
 タンパク質は生体を構成する重要な物質です。タンパク質を構成するアミノ酸にはアミノ基とカルボキシ基があり、この2つがペプチド結合により繋がって長い鎖を作ります。生体でタンパク質を作るために必要なアミノ酸は20種類ありますが、これは側鎖の部分が異なっています。そして、アミノ酸の重要な性質として、正にも負にも帯電する性質である両性電解質であることを解説し、タンパク質の立体構造についてもまとめました。重要な性質としては、熱や極端なpH変化により変性することです。タンパク質の性質は、酵素の話にも繋がるので、まとめておいてください。
 脂質には、脂肪酸とグリセリンからなる単純脂質と、単純脂質にリンや糖が結合した複合脂質があります。脂肪酸のうち、単結合のみからなるものは飽和脂肪酸、二重結合を含む場合は不飽和脂肪酸と呼ばれます。飽和脂肪酸が多いとどうなるか、不飽和脂肪酸が多いとどうなるかは講義中に説明しました。
 糖は単糖, オリゴ糖(特に二糖), 多糖と区別されますが、それぞれ代表的なものを説明しました。また単糖同士の結合であるグリコシド結合についても解説しました。


第4回 ウイルス, 細胞小器官の役割

 第4回は、ウイルスについてと細胞小器官の役割について解説しました。
 まず細菌とウイルスの違いについて、細菌は自己増殖能を持つがウイルスは自己増殖能の「一部」を持つことなどを解説しました。
 細胞内には種々の細胞小器官が存在し、それぞれが機能をもっています。今回は、核、リボソーム、小胞体、ゴルジ体、リソソーム、細胞壁、細胞骨格について、それぞれ解説しました。
 葉緑体やミトコンドリアは独自のDNAを持ちますが、これらは葉緑体がシアノバクテリア、ミトコンドリアが好気性細菌が真核生物を宿主として共生することによりできた細胞小器官である、という証拠がいくつかあります。これを細胞内共生説といいます。


第5回 酵素のはたらき

 第5回は、酵素について解説しました。
 酵素は生体内で触媒として働き、化学反応時の活性化エネルギーを低下させます。しかし、化学触媒と違うのは、反応する基質が決まっている基質特異性を示すことです。また、酵素には最も活性の高くなるpHである最適pHや最も活性の高くなる温度である最適温度が存在します。酵素の本体はタンパク質なのでタンパク質に由来した性質をもちます。
 酵素-基質複合体の話では、ミカエリス-メンテン式について解説しました。この式で、ミカエリス定数と呼ばれるKm値は、基質との親和性を示す大事な値です。どういったものか説明できるようにしておいてください。
 アロステリック酵素では、生成物がアロステリック部位に結合することで酵素活性の調節を行います。
 スライドの説明だけでは、あとで復習しないとさっぱりわからなくなるので、復習を丁寧に行ってください。


第6回 細胞膜の構造と機能

 第6回は、細胞膜の構造および機能について解説しました。
 細胞膜はリン脂質が主体の脂質二重膜です。この脂質二重膜にはタンパク質がモザイク状に埋め込まれており、ある程度移動できます。これは細胞膜を構成するリン脂質の脂肪酸部分に流動性があるためです。これを流動モザイクモデルといいます。このモデルは細胞膜の性質を形態面からだけでなく、生化学・生物物理学的側面からも説明したものです。
 細胞膜の重要な機能の一つである、物質の輸送について解説しました。エネルギーを必要としない「受動輸送」は拡散により物質の移動を行う方法であり、電気化学的勾配に沿って物質を輸送します。一方、「能動輸送」は電気化学的勾配に逆らって物質を輸送するためATPのエネルギーを必要とします。この違いはしっかりとまとめておいて下さい。


第7回 (遠隔講義)生物多様性

 第7回は、資料配信形式で生物多様性についてでした。
 生物多様性は「すべての生物の間に違いがあること」と定義され、生態系多様性、種多様性、遺伝的多様性の3つのレベルでの多様性があります。また人間の生活は自然の恵みに支えられており、これらは生態系サービスと呼ばれ、供給サービス、調整サービス、文化的サービス、基盤サービスの4つに分類されます。
 しかし種の絶滅など、生物多様性はたびたび危機を迎えます。日本では、人間活動や開発による危機、自然に対する働きかけの縮小による危機、人間により持ち込まれたものによる危機、地球環境の変化による危機の4つがあり、現在進行しています。こうした生物多様性の保全のため、生物多様性条約が採択されました。
 生物多様性の損失が社会経済活動にもたらす影響が注目され、生態系と生物多様性の経済学が研究されました。
 生物多様性は環境系のキーワードとなるので、新聞やテレビなどでもよく取り上げられています。


第8回 遺伝子の本体, DNAの構造と複製

 第8回は、遺伝子の本体・DNAの構造と複製について解説しました。
 肺炎双球菌を用いて遺伝子の本体がDNAであることを示したグリフィスとアベリーらの実験では、形質転換ということを説明しました。またハーシーとチェイスによるT2ファージを用いた実験では、放射性同位体を用いて遺伝子の本体がDNAであることを証明しました。
 核酸の代表的なものにはDNAとRNAがありますが、DNAはデオキシリボースという糖を含み、プリン塩基であるアデニン、グアニンとピリミジン塩基であるチミン、シトシンの4つの塩基からなっています。また、RNAはリボースという糖を含み、アデニン、グアニン、シトシン、ウラシルの4つの塩基から出来ています。DNAもRNAもリン酸と糖と塩基が結合したヌクレオチドが必ず5'末端から3'末端へと伸びていきます。DNAやRNAは構造のほか、構成する糖と塩基に違いがありますが、これらは基本なので覚えてください。さらに、ワトソンとクリックにより報告されたDNAの構造は逆平行鎖の二重らせん構造をとり、相補的塩基対を作っていることを解説しました。
 DNAの複製に関して、メセルソンとスタールの実験からは、DNAは元のDNAの1本を鋳型として半保存的複製が行われることを解説しました。複製のメカニズムとしては、連続的に複製を行うリーディング鎖と、短い岡崎フラグメントを作りながら不連続な複製を行うラギング鎖があることを解説しました。


第9回 転写と翻訳, 染色体

 第9回は、転写と翻訳, 染色体について解説しました。
 DNAの遺伝情報はmRNAに転写されますが、この時DNAの1本の鎖と相補的塩基対を形成します。mRNAに転写された情報から遺伝暗号表によりアミノ酸配列を決める方法を解説しました。きちんと復習しておいてください。
 転写され遺伝情報は翻訳されます。mRNAには直接アミノ酸をくっつけることはできないので、tRNAがアミノ酸とmRNAをつなぐアダプターとしてはたらいています。リボソーム上でmRNAのコドンに対応したアンチコドンを持つtRNAがやってきてペプチドの伸長が起き、これらが修飾を受けて機能を持つタンパク質が合成されていきます。
 翻訳されてできたポリペプチド鎖はゴルジ体で修飾されたり、エラーのおきているものはリソソームで分解されたりします。
 染色体は長いDNAがヒストンというタンパク質に巻きついたものが複合体を形成した、クロマチンが凝縮したものです。ヒトでは46本の染色体がありますが、22対の常染色体と1対の性染色体により構成されています。大きさと形が同じ染色体を相同染色体といいます。性染色体のうち、♀では1対2本のX染色体が、♂では1本のX染色体と1本のY染色体が対となって存在します。染色体の数は生物の種によって異なりますが、進化しているほど多いとか、少ないといったことはありません。
 細かい過程を暗記する必要はないのですが、これらの内容は現在の分子生物学の基本中の基本ですので、しっかりと理解してください。またよくわからなかったところは自分で復習して下さい。


第10回 細胞分裂, 遺伝の法則

 第10回は、細胞分裂と遺伝の法則について解説しました。
 細胞分裂には、体細胞分裂と減数分裂があります。体細胞分裂が1回で終わるのに対し、減数分裂は2回連続で起き、染色体数が半減し、受精後再び染色体数が元に戻ります。この過程について解説しました。体細胞分裂と減数分裂の違いをきちんと整理ておいてください。
 最後にメンデルの遺伝の法則について解説しました。メンデルはエンドウを用いて、7つの対立形質について調べました。そして「顕性の法則」「分離の法則」「独立の法則」を発見しました。


第11回 DNAの変異と修復, 染色体異常, エピジェネティクス

 第11回は、DNAの変異と修復, 染色体異常, エピジェネティクスについて解説しました。
 (突然)変異は、ヌクレオチドが物理的あるいは化学的な作用により損傷を受け、塩基配列が変わることにより引き起こされます。この変異には個体にあまり影響を与えない場合と、致死的な状況を招く場合の2種類があることを解説しました。またDNAの塩基にチミンが使われている理由なども解説しました。次にDNAに損傷が起きたときに修復する方法をいくつか紹介しました。
 通常染色体数は生物により決まっていますが、細胞分裂時にアクシデントがあると染色体が正常に分離せず数が変わってきます。また、染色体の一部が切れてしまうこともあります。このような場合を染色体異常といいます。講義では生物学の教科書によくみられるケースをいくつか紹介しました。
 最後にエピジェネティクスについて概説しました。
 細かい内容を暗記する必要はありませんが、これらの内容は現在の分子生物学の基本中の基本ですので、しっかりと理解してください。よくわからなかったところは自分で復習して下さい。


第12回 (遠隔講義)進化について

 第12回は、進化について解説しました。
 進化は世代を経るうちに、今までとは異なる性質を持つ生物が出現することで、生物集団の遺伝子構成の変化によりおきます。この時、自然選択、すなわち遺伝的変異が原動力となり、生育環境に適応し、その環境で繁殖可能な子をもっとも多く残したものが生き残ります。生物は生殖隔離や地理的隔離により、種分化を起こしながら種数が増加してきました。
 次に、順化と適応の違いについて解説しました。しばしば混同して用いられますが、実際にはきちんと使い分けなければなりません。この他、短時間に進化を示した例としてオオシモフリエダシャクの工業暗化について解説しました。
 ハーディー-ワインベルグの法則については、集団遺伝について議論するときに関係するものです。数学的な考えも必要ですので、ざっくりと整理しておけば良いです。
 細かなことよりも、進化に関してざっと理解してもらえれば良いです。


第13回 生態系の構造と機能

 第13回は、生態系の構造と機能について解説しました。
 生態系は、非生物的環境、生産者、消費者、分解者から構成されています。この生態系内の食物連鎖の量的関係を示したものが生態ピラミッドです。生態ピラミッドは、個体数で表した個体数ピラミッド、単位面積当たりの乾燥重量やエネルギー量で表した生物量ピラミッド、単位時間・単位面積あたりの生産量をエネルギーに換算して表した生産力ピラミッドがあります。
 生態系内では物質は循環し、エネルギーは一方向へ流れます。炭素は光合成、呼吸、燃焼、炭化等により循環し、窒素は窒素固定、窒素同化、脱窒などの過程で循環します。一方、エネルギーの流れでは、植物は光合成により光エネルギーを化学エネルギーに変換し、各栄養段階を流れ、最終的には熱エネルギーとなって生態系外へ放散されます。